しかし今回は特別。私の若き友人が、神戸・北野坂に割烹「北野坂 栄ゐ田」を、昨日:3月9日にオープンしたため、ちょっと「食」について書いてみようかと思った。
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このblogのたった一度のグルメ記事でも述べた、「フーディング」という概念が、昨夜「栄ゐ田」の扉を開いた瞬間、私の頭に浮かんだ。「フーディング」とは、「フード」と「フィーリング」の造語で、1999年頃にから生まれた新たな価値観である(フーディングの詳細は、以前の記事でどうぞ)。
その価値観に込められた意味は、味だけではなく、食器、照明、そして音楽などが重要な要素になってくる。「栄ゐ田」の印象は、この「フーディング」という価値観に妙にマッチングしていたのだ。
もう少し「フーディング」という食のトレンドについて触れておこう。料理、食の空間、おもてなしなどの要素が盛り込まれたこのフレーズを考えながら、昨夜「栄ゐ田」で食事をしていると、ある人間の名前が思い出された。このblogでも幾度となく触れている、北大路魯山人、その人である。彼は昭和の初期に、この「フーディング」という価値観の発想を持って、料理店経営、器作りをしていたのではないか。
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彼のテクストを集めた「魯山人味道」の中でも、「食器は料理のきもの」「味覚と形の美は切っても切れない関係にある」ことについて語り、味覚の美、芸術の美、空間の美などを総合的にいかに楽しめるかを、極限まで突き詰めた「食」のトータル・デザインとして既に「フーディング」の確立を成し遂げていたのである。
そんなことをぼんやり思考しながら、昨晩「栄ゐ田」での食の宴が始まった。
ここからは、昨日提供された料理やお酒の数々を、写真を交えてご覧いただこう。
● 開運大吟醸 波瀬正吉・作
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私は普段、日本酒を余り嗜まないのだが、昨夜の日本酒は実に美味かった。
なんと表現すれば良いんだろう。ワイン的なまろやかさと、貴腐的な上品な甘さが混在した風味が、私の舌にさらりと馴染んだ。軽やかな日本酒のその名も「開運大吟醸」。縁起の良いブランド名、そして杜氏さんの名前が前面に押し出される潔さが、その酒の美味しさにプラスされた感じである。醸造元は静岡県で、珍しお酒らしい。
● 日本酒リスト
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この店の強みが、日本全国の名酒が揃っているリストからも伺える。
● 店内風景(その1)
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都会の中の竹林を眺めながら、料理を食す。
● 店内風景(その2)
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私が料理を食した場所。その食の空間に、東儀秀樹的雅楽サウンドが充満する。
● 先付け
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鮑の煮付けの柔らかさに驚き、菜の花の和え物に春を感じるなど、その器に1つの春の世界が広がっていた。
● 箸置き
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箸置き1つにも、その店の表現したい世界観を感じることができる。
● 刺身盛り合わせ
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昨晩私が秀逸と感じた一品。伝助穴子を少し炙った刺身は、今まで私が食してきた穴子の食感を転回させる美味しさがあった。炙った鯖の刺身も、口の中に広がる旨味に、私は恍惚となっしまった。
● 椀物
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筍、ワカメ、そして良く出しの効いた汁物。春のお吸い物である。
● 味噌漬け
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真魚鰹の吟醸味噌漬け。吟醸の風味が、通常の味噌漬けの美味しさを一層引き立たせていた。
味だけでなく、真魚鰹の色合いと、緑柚の器の調和が実に見事であった。
● 小休止:名酒のボトル
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上記でも言ったように、杜氏の波瀬正吉氏の名前がボトルの前面に。
もう1つの幻の酒「亀」も飲んでみた。これは熟成された酒にもかかわらず、日本酒のキリリッとした風味が口に広がり、食欲がより湧いてくる。
● 天麩羅
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春野菜の天麩羅。天然のお塩で食することで、自然の旨味がダイレクトに味わえる。
● 鯖寿司
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刺身の所でも書いた、少し炙った鯖で創造した押し寿司である。食べて貰えれば分かるのだが、これは鯖寿司の極みかもしれない。脂が乗った鯖が、何の臭みもなく、舎利と一体化した味は極上である。
● デザート
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サツマイモを磨り潰したモノを団子にし、それを黒胡麻と葛で溶いたペーストを絡めて食す。
このように昨晩の食事を思い起こしながら、このテクストを書いていても、口の中にその味が蘇ってくる。
この食の記憶こそが、フーディングの基本なのかもしれない。
昨日オープンしたばかりの店だが、そこには神戸的フーディングが醸成されている。
これからも、今以上にコンセプトを明快にし、インテリアや料理にテーマ性を持たせて、神戸の食のトレンドを牽引して貰いたい。
私の記憶に、また1つ素晴らしい食の店が刻み込まれた。
私が経験した食を体感したい方は、是非「北野坂 栄ゐ田」に足を運んでいただきたい。
● アクセス・マップ
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“北野坂 栄ゐ田”
住所:神戸市中央区中山手通1-22-13 ヒルサイドテラス5階
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