Thursday, September 13, 2007

あいまいな国の宰相:3つのキーワード

今回は昨日の出来事を受けて、急遽"Visionary"シリーズをお休みし、「あいまいな国のリーダー」について考えてみたい。といっても、ここで政治論や日本人論を展開しようなどとはさらさら考えていないので、あしからず。

しかし、事件というものは突発的に起こるものである。今回の出来事は、グローバルな視点で見ると「事件」と表現しても良いだろう。先進国、経済大国、Cool Japan、などといわれている国家のトップの作法がこんなものなのかと、世界中が目撃してしまったのだから。

今回の事件を見る場合、私は以下の3つのキーワードがすぐに頭に思い浮かんだ。

一つ目は、安倍首相の言説である。
彼は昨年首相に就任してから、様々な場所で「美しい国、日本」という言論を展開してきた。
私などは、このフレーズを聞いて、日本の伝統への回帰を唱えた日本浪漫派、または、川端康成のノーベル文学賞受賞記念講演「美しい日本の私」が思い起こされた。しかし実際は、安倍首相の言説をメディアを通して聞いてみると、その曖昧模糊さから、これは大江健三郎が今から13年前のこれまたノーベル文学賞受賞記念講演「あいまいな日本の私」の方が適当かなと思い至った。
この数ヶ月間で見えてきた年金問題、政治と金などのambiguousな事象の結末が、昨日の辞任表明であったことを考えれば、余りにも寂しい感じはするけれども。



次に、企業のマネジメント・サイドとの関係を多く持ってきた私が考える「リーダーシップ」についてである。極論すると、組織のリーダーであれ、国家のリーダーであれ、次の3つのポイントは必ず押さえておかねばならない。

1)説明責任
2)グランドデザイン構築力
3)出処進退の潔さ

安倍首相にはこの3つが欠如していたのではないだろうか?昨日の事象は、3)の欠如。任命権者たる安倍首相が選択した大臣達の不明瞭な動向、年金問題、国会運営、などに関する事柄に関して言えば、1)の欠如。そして極めつけは、国家のリーダーであれば絶対必要な2)の欠如。これに関して言えば、安倍首相は様々な危機的状況:年金問題、テロ特措法、参院選惨敗などに対して、内閣改造や農水大臣の首のすげ替えなど小手先のTacticsに走りすぎていたのではないだろうか。国家のグランドデザインを描くときは、先に述べたワンフレーズなどではなく、問題が起こる前にリーダー自身の先見性や洞察力(=Insight)によって、事実を把握し、仮説を構築し、実行していくというシナリオを何本も持っておく必要があるのではないだろうか。安倍首相にはこれがなかった。
考えてみると、私が実際に見てきた企業の経営者にもなかなかこの3つのポイントが備わっている人物がいなかったことは確かである。でも国家元首であれば、この3つの素養ぐらいは備えておいて欲しい。
安倍首相に敗者復活の場が用意されるのであれば、これらに思いを巡らせて頑張って欲しい。

最後のキーワードは、「参謀」である。
先週亡くなった、第二次世界大戦中には関東軍参謀、戦後は伊藤忠商事会長、中曽根内閣のブレーンとして活躍した瀬島龍三のような人材を安倍内閣は持ち得なかった悲劇があろう。
どんな組織でも良質な参謀は必要で、リーダーになる人物はトップに立つ準備として、この参謀を見つけることが求められる。彼に関する評伝を読んでいると、瀬島龍三は帝国陸軍参謀として養われたLogicalな思考を身に付けた人物だったようだ。彼は未来に起こるであろう問題に備え、その事柄を他者に伝える手法として、シナリオA案、B案、C案、・・・、そしてA案に対してのA'、B案に対してのB'・・・・、という感じに、明解なグランドデザイン=戦略を部下達に指示したという。
安倍首相にこのような人材が一人でもブレーンとして存在したら、現在のような状況は回避できていたかもしれない。

現在リーダーである人、これからリーダーになろうとしている人、これらの人達はこの3つのキーワードを肝に銘じて職責を全うして貰いたい。

4 comments:

Anonymous said...

ま、早い話が安倍さんは、「能力不足」のひとことで済んでしまうのではないのでしょうか。自分のキャパ以上のものを抱え込んで、もともと悪かった身体に加えて、心まで病んでしまった。ちょっと最後はウツっぽかったですしね。
 もっとも、周りが無理やり持ち上げて・・・というのでなしに、当の本人がヤル気マンマンだったのだから、同情はできません。やはり、まずは自分で自分を正しく評価すべきでしょう。しかしながら、ずーっとエスカレーターで人生上がってきた人が一番苦手なのが、この「自分を正しく評価する」ということなのですが。
 よく、彼を評してKY(空気が読めない)と言われますけれども、むしろZY(自分が読めない)人だったなと感じています。
 ところで、瀬島龍三なんですが、「彼に関する評伝」というのは、本人の著書ですか?それとも保阪さんの?どちらも私はまだ読んでません。結構毀誉褒貶の大きい人物で、きちんと向き合いたいと思っているのですが、先の戦争(満州事変から)の勉強を始めたばかりで、通史的な読み物ではなかなか触れられることの少ない人物なんですよね。同じ大本営の作戦課にいた人物の中では、辻政信の名はイヤっつーほど出てくるんですが・・・。
 長レス失礼しました。

YF Velocity said...

コメント、有難うございます。
安倍前首相は、ZYですかー、上手い表現ですね。
瀬島龍三に関しては、瀬島氏本人&保坂氏、両者の著書を読了済みです。瀬島氏に関しては、様々なCritiqueがなされていますが、戦後、特に中曽根内閣当時にブレーンとして動いた彼の功績は大きいのは確かです。ただし、彼の戦中および敗戦直後における、彼自身の思考が見えてこないのも事実です。帝国陸軍の参謀としての功罪をもう少し、自分の口から語って貰いたかったというのが、私の率直な感想ですね。
あと、私はどちらかと言うと、辻正信より、石原莞爾に大変興味を以前から持っています。彼の自著である「最終戦争論」などを読んでいると、彼自身の戦争当時の思考、リアリストの中にも冷静な研ぎ澄まされた知性を感じ、興味深い人物です。
第二次大戦の日本軍の戦略性および戦術性に関しては、大変秀逸な分析を繰り広げている「失敗の本質―日本軍の組織論的研究」(中公文庫)も参考にされたらいいですよ。既にはすざわさんは読まれているかもしれませんが。。。

miwa_tsubaki said...

安倍前首相は「求心力」のなさに気づいてしまったのでしょうね。はすざわさんのおっしゃるとおり、彼はZY(自分が読めない)人でした。
 安倍前首相の祖父である岸前首相の意志を引き継いで、自身の手で何がなんでも改憲へ持ち込み、戦力を蓄える国へ変えていきたい気持ちは人一倍強かったと思います。「美しい国、日本」という言論を展開するのも、愛国的な考えを美化し、苦し紛れの啓蒙が必要だったからでしょう。戦前のように力ずくで正当化する場合もあれば、一応平和が長く安定した現代においては曖昧に装って美化する場合もある。
 彼の場合、そういったタカ派の強い信念とは裏腹にぼんぼん育ちゆえの優しさが出てしまい、大きくズレが生じてガタガタになってしまった。そのあたりがZYなんだと思います。これでは求心力を保てません。
 リーダーにおいては、「空気を起こす」ことが重要だと思います。空気を読む=できあがった空気を追うのではなく、空気を自ら起こし、周囲を巻き込む力が結果的に良質な参謀にも恵まれることになるのでしょう。
 福田現首相は読む力は相当ありそうです。まずは穏やかに空気を鎮めることから始めているようですが、何か起こすのでしょうか。

YF Velocity said...

miwaさん、コメント有難うございます。

まあ、私的には、まずは選挙で国民に現在の自民・公明連立政権の是非を問うべきと考えます。
その意味で言えば、今回の福田内閣は選挙管理内閣であるということを、我々は認識しておくべきでしょうね。

安倍前首相に関して一言付け加えるなら、祖父の呪縛からの政策ではなく、氏の自律性のある政策で論争を起こすべきでしたね。結局は、その過去からの想いで破綻をきたした訳ですから。