Sunday, August 03, 2008

明日を読み解く視点を養うには

先の読めない時代=不確実な時代といわれて、相当時間が経つ。経済、政治、社会、文化など、どの領域を見ても先を見通すことはかなり困難な状況である。
特に私が属するビジネス界では、不確実な傾向は拡大する一方である。
こんな先の見えない環境に少しでも明かりを灯す方法というモノが実は存在する。
それはシナリオ・プランニングという技法である。
この技法を実際のビジネス環境で旺盛に利用して、数々の難局を打破してきた企業がある。その企業とは、ロイヤル・ダッチ/シェル。皆さんも周知のように、この企業は石油メジャーの1つであるが、この企業の提供価値は石油という商品やそれに付随するサービスではなく、シナリオ・プランニングという技法を独自に開発し、ビジネス現場で有効利用してきたことにあると、私は考える。
シェルはその技法で、第一次、第二次石油ショック、その後の石油価格の暴落の可能性を推測し、さらにはゴルバチョフ登場以前にソビエト連邦の崩壊を予見して、数々のビジネス危機をビジネス・チャンスに変えてきた。
シェルのシナリオ・プラニング・チームを長年率いてきた人物、ピーター・シュワルツが著した「シナリオ・プラニングの技法」にそのプロセスは詳しく説明されているので、興味のある方は是非読んでみて欲しい。


私が今回このシナリオ・プラニングをテーマに選んだのは、アメリカのサブプライムローン問題に端を発する世界市場の混乱、石油市場における投機的動きによる原油価格高騰、など不確実な状況が今年になってより鮮明になってきたから。このような時代には、明日を読み解く目というモノ=シナリオ構築力を国家、企業、個人のそれぞれが持たねばならい。
このように考えているとき、上述したロイヤルダッチシェル社が2050年までのエネルギーに関するシナリオを作成したことを知った。自ら石油なしに存在し得ないはずの会社が、上記したように実は相当未来に渡る調査研究、シナリオ作成をしていて、それに併せて会社の有り様を実は変化させている。このシナリオを目にしたとき、日本の企業はこういう努力をしているだろうかと、私は不安を感じた。このシェルのコア・コンピタンスによって、石油の時代が終わっても、シェルが世界のエネルギー市場をコントロールしているのではないかと思わせる。

今回のシェル・シナリオは、シェル社のサイトからダウンロードして読むことができる。


Shell energy scenarios to 2050


この報告書の中には2つのシナリオが描かれている。第1のシナリオが良くてこのぐらいという方向で名前が"Blueprints"。Blueprints(早期に国際的な枠組みで対策をした場合)では、2050年までに世界レベルで国家・地方自治体の両方で環境規制が強化され、エネルギー効率の改善や電気自動車の普及、国際レベルでの排出権取引の実施などを想定。第2のシナリオが、良くなくてこのぐらいという方向(つまり現状の延長)で名前が"Scramble"。Blueprints=最良のシナリオではウェブを介した善意の細かな動きが前向きに動くことが前提とされている。"Blueprints"のシナリオの方向性で進んでもらいたいと私も考えるが、どうも現在のグローバルな動きを見ていると"Scramble"シナリオで進みそうな予感が強い。
いずれにしても、シェルは定期的にこうしたシナリオ構築を行い、その中でシェル自体は何をすべきかを考えている。今の我々には求められているのは、こんな明日を読み解く思考を身に付けることなんじゃないかな。

2 comments:

b.yanagida said...

非常に興味深いです。
僕が属しているWeb業界では特に変化のスピードが凄まじく、今の現状だけで新しいサービスを考えると、提供できるときには時既に遅し、と言う事が多々あります。
これを回避するためにも、このシナリオ・プランニングの視点を少しでも取り入れたいな、と感じました。
また教えてくださーい。

YF Velocity said...

ほーーい。でも、シナリオ・プランニングの手法を覚えたとしても、情報集・編集、分析、情報転移など多様なソースから明日を読み解く力がないと、なかなか困難な作業だよ。
私自身だって、まだまだこのシェル社のシナリオ・プランニング・チームと比較すると、めちゃ未熟だからね。