今回は昨日の出来事を受けて、急遽"Visionary"シリーズをお休みし、「あいまいな国のリーダー」について考えてみたい。といっても、ここで政治論や日本人論を展開しようなどとはさらさら考えていないので、あしからず。
しかし、事件というものは突発的に起こるものである。今回の出来事は、グローバルな視点で見ると「事件」と表現しても良いだろう。先進国、経済大国、
Cool Japan、などといわれている国家のトップの作法がこんなものなのかと、世界中が目撃してしまったのだから。
今回の事件を見る場合、私は以下の3つのキーワードがすぐに頭に思い浮かんだ。
一つ目は、安倍首相の言説である。
彼は昨年首相に就任してから、様々な場所で「美しい国、日本」という言論を展開してきた。
私などは、このフレーズを聞いて、日本の伝統への回帰を唱えた
日本浪漫派、または、川端康成のノーベル文学賞受賞記念講演「美しい日本の私」が思い起こされた。しかし実際は、安倍首相の言説をメディアを通して聞いてみると、その曖昧模糊さから、これは大江健三郎が今から13年前のこれまたノーベル文学賞受賞記念講演「
あいまいな日本の私」の方が適当かなと思い至った。
この数ヶ月間で見えてきた年金問題、政治と金などのambiguousな事象の結末が、昨日の辞任表明であったことを考えれば、余りにも寂しい感じはするけれども。
次に、企業のマネジメント・サイドとの関係を多く持ってきた私が考える「リーダーシップ」についてである。極論すると、組織のリーダーであれ、国家のリーダーであれ、次の3つのポイントは必ず押さえておかねばならない。
1)説明責任
2)グランドデザイン構築力
3)出処進退の潔さ
安倍首相にはこの3つが欠如していたのではないだろうか?昨日の事象は、3)の欠如。任命権者たる安倍首相が選択した大臣達の不明瞭な動向、年金問題、国会運営、などに関する事柄に関して言えば、1)の欠如。そして極めつけは、国家のリーダーであれば絶対必要な2)の欠如。これに関して言えば、安倍首相は様々な危機的状況:年金問題、テロ特措法、参院選惨敗などに対して、内閣改造や農水大臣の首のすげ替えなど小手先のTacticsに走りすぎていたのではないだろうか。国家のグランドデザインを描くときは、先に述べたワンフレーズなどではなく、問題が起こる前にリーダー自身の先見性や洞察力(=Insight)によって、事実を把握し、仮説を構築し、実行していくというシナリオを何本も持っておく必要があるのではないだろうか。安倍首相にはこれがなかった。
考えてみると、私が実際に見てきた企業の経営者にもなかなかこの3つのポイントが備わっている人物がいなかったことは確かである。でも国家元首であれば、この3つの素養ぐらいは備えておいて欲しい。
安倍首相に敗者復活の場が用意されるのであれば、これらに思いを巡らせて頑張って欲しい。
最後のキーワードは、「参謀」である。
先週亡くなった、第二次世界大戦中には関東軍参謀、戦後は伊藤忠商事会長、中曽根内閣のブレーンとして活躍した
瀬島龍三のような人材を安倍内閣は持ち得なかった悲劇があろう。
どんな組織でも良質な参謀は必要で、リーダーになる人物はトップに立つ準備として、この参謀を見つけることが求められる。彼に関する評伝を読んでいると、瀬島龍三は帝国陸軍参謀として養われたLogicalな思考を身に付けた人物だったようだ。彼は未来に起こるであろう問題に備え、その事柄を他者に伝える手法として、シナリオA案、B案、C案、・・・、そしてA案に対してのA'、B案に対してのB'・・・・、という感じに、明解なグランドデザイン=戦略を部下達に指示したという。
安倍首相にこのような人材が一人でもブレーンとして存在したら、現在のような状況は回避できていたかもしれない。
現在リーダーである人、これからリーダーになろうとしている人、これらの人達はこの3つのキーワードを肝に銘じて職責を全うして貰いたい。