Sunday, September 24, 2006

アートとビジネスの相関関係:「芸術起業論」

どんな世界にも戦略が必要だ。
それが、芸術=アートの世界であろうと、例外ではない。素晴らしい作品を世に残していくためには、アーティスト自身が自己の作品を商業ベースにのせていく緻密な戦略を練っていくことが重要なんじゃないかと、私は考える。
アートやデザインの業界はどうもこの利益を追求する姿に対して嫌悪感があるようで、他者を感動させる新たな作品・潮流を生み出していくキー・ドライバーは「金銭」と「時間」が基本的要素であることを忘れている。
加えて、どうもアートを語る批評家達は、作品の上辺ばかりを見て、作品の本質部分に光を当てようとしない。これでは、アートやデザインの世界は一般的にはならないし、いつまで経っても一部分の人々が楽しむものでしかない。

この様なことを考えていたとき、書店で手にした書籍が村上隆の「芸術起業論」(幻冬舎)であった。彼の作品は今では、サザビーズのオークションで1億円以上で取引されている。その余りの海外市場での人気に、同業者や批評家からは、金儲けばかり考えているエセ芸術家、オタク文化を再解釈しただけの物真似作品、などと辛辣な批判に晒されている。しかしこの様な批判は何も今の時代に始まったわけではなく、Andy Warholが初めてポップ・アートを世に出したときもそうではなかったか。またもっと時代を遡ると、天才芸術家・北大路魯山人(漫画・美味しんぼの海原雄山のモデル)も、料理・陶芸・書などを総合的にプロデュースする能力を妬まれていた。どんなに批判の対象になろうとも、私は彼ら3人のアーティストの行動・思考様式を大変評価している。





「芸術起業論」の中で村上は、世界的に通用するアーティストになるためには、「西洋美術史でのコンテクストを作成する技術」=「世界基準の文脈を理解する技術」を身に付けるべきであることを繰り返し述べている。つまり、芸術作品は社会と接触しなければ、作品としての価値は見出されず、単なる自己満足の代物でしかない。だから、アートの世界にも、アーティスト自身がビジネスセンス、マネジメントセンスを貪欲に身に付ける必要があるということを訴えかけている。私のようにアメリカで教育を受け、市場原理主義が普通と考えている人間からは、至極当たり前のことを述べていると感じるのだが。

一人のアーティストがこの様な書籍を書き上げたことも驚きだが、それよりも未だにアートの世界が閉鎖されたコミュニティの中で、自己満足な作品しか生産していない現実に傲然となる。忘れてはならないのは、どんな商品・サービスでも、顧客がいて、その顧客とのコミュニケーションが成立してこそ、認知されるのである。それがいかに芸術作品であったとしても、何ら変わることはないと思うのは私だけであろうか。

アート世界の閉塞感を打破するために、次代のアート空間を担う一人になるであろうだい氏にこの一冊を手にとって貰いたい。

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