1ヶ月前の10月30日に、20世紀最後(と言っても過言ではないだろう)の世界的知性が逝去した。
その知性の名は、クロード・レヴィ=ストロース。100歳という長寿で亡くなったのだが、この偉大なる知性は死ぬ間際まで思考し続けていたに違いない。
色んな方が追悼文を書かれているが、このblogではちょっと違った形で哀悼の念を示したい。私の「知」に対する飽くなき欲求を開眼させてくれた、今は亡き偉大な知性の著作で私が一番影響を受けたモノを、このblogで連載している私のモノに対するストーリーに絡めて表現してみたい。
と言うことで、今回のモノに関する私のストーリーは、書籍である。
数あるレヴィ=ストロースの著作の中で、一番ワクワクして読んだのが「野生の思考」であった。
Photo見ていただければ分かると思いますが、表紙にはパンジー(3色スミレ)の絵が描かれている。
「野生の思考」の原題は、“La Pensée Sauvage”。このタイトルに用いられているパンセ(pensée)には、「思考」という意味の他に、「パンジー(3色スミレ)」という意味があるんですよ。なので、この書の表紙に野生のパンジーを持ってきたんでしょうが、こういう部分にレヴィ=ストロース自身のIntelligence&Creativityを感じてしまう。この表紙からだけで、彼の書と相対するには、自身の教養や思考を総動員しても事足りないのではと感じてしまった。
「野生の思考」はレヴィ=ストロースの著作の中でも、難解なモノに属する。初めてこの書に触れた高校生の頃には、殆ど本質を理解できていなかったと思う。しかし、大学・大学院、社会人と進んでいく中で、自身が定めた分岐点でこの書を開き、精読し、自身の思考のパズルを1つひとつ埋めていった。カチッ、カチッと思考のパズルが埋まっていく中で、私の知への欲求が溢れていくことを感じ、自身の思考が研ぎ澄まされていく感覚も覚えた。
人類学という私と全く違った領域とはいえ、レヴィ=ストロースの思考集成は、私が探求し続けているデザイン思考、クリエイティブ力などのようなモノや形を直感的に扱う、言い換えれば創造的な仕事=「具体の科学」を実践していく指針をこの書は示してくれる。
「野生の思考」でレヴィ=ストロースが象徴的に用いた用語、ブリコラージュ(bricolage)は「修繕」・「寄せ集め」・「細工もの」といった意味を持つフランス語。それを実行する人々をブリコールは、予め全体の設計図がないのに、その計画が変容していった時、きっと何かの役に立つと考え、集めておいた断片を、その計画の変容の目的に応じてパッチワークして行けると表現する。よく考えてみると、現在クリエイティブワークを主体としている人々も、このブリコラージュ的ワークによって、常に「全体」と「部分」の関係を有機的に動かし、新たなモノやサービスを創造しているのではないだろうか。つまり、レヴィ=ストロースはこの書を通して、クリエイティブとは?思考するとは?という命題を示してくれているのだと考えながら、私は今後も時々この書を開けるだろう。
いずれにしても、20世紀最高にして、最後の知性は逝ってしまった。
レヴィ=ストロースは生前、日刊紙「ル・モンド」に応じたインタヴューの中で、「私はもはや現代世界の人間ではありません。私が見聞し、愛した世界は人口が15億人でした。現在の世界人口は60億人です。これはもう私の世界ではありません」と述べていたことが思い出される。
このインタビューで本当に彼が言いたかったのは、自分が生きた時代は教養が大事にされ、知的刺激に富んだ世界が広がっていたが、もう今はそういう世界が存在しないことだったのかもしれない。
R.I.P.
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